借金をリセットし、生活を立て直す手段として知られる「自己破産」。
どういった状況なら自己破産できるのか、どのようなメリット・デメリットがあるのかを学び、さらにその後の生活はどうなるのかを徹底レクチャーします。
加えて、自己破産に掛かる裁判所費用や手続きについて詳しく解説!こちらも財産の有無で変わってくるので要チェックです。
「自己破産」にはさまざまな制限やデメリットがありますが、それでも自己破産を講じる必要がある場合、今後の生活を再建するためにも、財産や職業・家族にどれだけ影響を与えるのかをしっかり把握しておきましょう。
執筆者 小田原aki
関西出身・関東在住のライター
目次
自己破産とは債務整理のひとつで、簡単に言えば、裁判所から「借金の返済能力がない」と認められ、債務(借金)の支払い義務を免除を受けること。
持ち家などの財産を手放す必要や、条件によっては高額な費用がかかるなど、債務整理の中では「最終手段」として扱われます。
そのため、まずは免責範囲は狭いが制約が少ないその他の債務整理を講じるのが一般的。それでも生活の立て直しが厳しいとなる場合に、「自己破産」は選択されます。
まずは、どのような「債務整理」があるのか、その概要をみていきましょう。
債務整理の種類 | 特長 | 制約 | 信用情報の記載期間 |
---|---|---|---|
過払い金請求 | 金銭の賃借があり、利息制限法を超過する利率であった場合に過払い分を請求できる | 特になし | 記載されない |
任意整理 | 弁護士が債権者と和解交渉する 将来の利息分カット・月々の返済減額が可能 |
事故情報扱いとなる | 5年間 |
個人再生 | 借金を1/3から1/5に減額できる 裁判所に借金減額の申立を行う 自宅を手放す必要がない※住宅ローン特約を利用 |
住宅ローン特則を利用すると費用が高い | 5年間 |
自己破産 | 裁判所から借金などの返済義務を免責される 財産は処分され、債務者に均等に分配される 債務整理の最終手段 |
持ち家や車、評価額20万円以上のものは手放す 職種によっては仕事も制約を受ける |
10年間 |
自己破産は、すべての借金に苦しむ人に認められる訳ではありません。極端に言うなら、5,000万円の借金があったとしても、年収2000万円以上の安定収入があり、その他に借金やローンがない場合は「返済能力がある」とされます。
自己破産が認められるのは以下の3つの事由が必要です。
自己破産には①の「支払い不能状態である」と裁判所に判断されることが大前提です。これは、個人の収入や財産もちろん、年齢や家族構成(扶養人数など)・生活費などと、借金の総額・借入先ごとの金額・毎月の返済額と照らし合わせて判断されます。
また一時的な失業や疾病による収入減や借金があったとしても、その後の収入や借金の総額によっては「自己破産」は認められません。
例えば同じ収入・同じ借金額であったとしても、30代の独身男性と被扶養者や要介護の高齢者を抱えている50代の既婚男性では、返済能力に差異があり、「支払い不能」という判断も変わってきます。
「自己破産」は、あくまで最終手段。「任意整理」や「個人再生」など他のの債務整理の存在も忘れてはいけません。
ついで、借金をした理由に悪質な思惑や、債権者に不利となるような行動があったと問題視されるのが②の「免責不許可事由」。裁判所に事実と異なる申立てをした場合、それがたとえ過失であっても「免責不許可事由」となるので注意しましょう。
最後の③について、負債の内容が「税金・医療保険・年金」などの公的なものに加え、「養育費」は非免責債権となるため、自己破産しても返済義務は残ります。
【免責不許可事由】
免責不許可事由に該当しないための要点は、「ズルはNG・生活を立て直す意志がある・全てのに扱う」であること。
そのため、借金をした理由がたとえ(A)であっても、真摯な反省態度と生活再建への努力を示すことで、「裁量免責」を受けられる可能性があります。反対に、(B)のように短期間で自己破産を繰り返すことは認められていません。
また、金融機関だけでなく親族にも借金がある場合、心情として親族には返済したいことは理解できますが、親族のみに返済してからの自己破産は許可されない可能性が大です(C)。
※「偏頗弁済の禁止」
債務整理の最終手段とされる「自己破産」。少なくとも自己破産を講じる前に、そのメリット・デメリットは確認しておきましょう。
自己破産のメリットはなんと言っても「借金を免責される」こと。利子を返すだけで精一杯という状況でも、元金を含み全ての債務が免責される場合があります。
そして「自己破産」の最大の目的は、健全な収支バランスの回復など生活の再建。裁判所が借金をした理由や反省態度をみて、本来は不許可免責事由となる案件を「裁量免責」とする場合があるのも、こういったことが理由となります。
自己破産のメリット
自己破産には数多くの制約やデメリットがあります。なにも自己破産することで、社会的な立場が悪くなる…という訳ではありませんが、持ち家や自動車などの本人名義の財産は一旦ゼロとなると考えてよいでしょう。この「財産」には将来的に支払いが見込まれる退職金(下記参照)も含まれます。
自己破産のデメリット
※1:同時廃止・管財・少額管財で裁判所費用が異なる
※2:詳細は下記「会社にバレない?」に参照
債権者だけがもはや借金を取り立てることができない…という訳ではなく、債務者の財産整理をすることで払えるものは払う、という両者痛み分けとなるのが「自己破産」だと認識してください。
自己破産後の生活に必要な自由財産以外は失いますが、本人を含め家族も職業や学業など、社会的な立場は基本的に保証されています。
借金で、何をしてもまともな生活が送れない…という人生をリセットするためには必要な手段だと言えるでしょう。
自己破産には以下の3つの種類があります。
不動産や車、その他高額な査定額となる物品がある場合、裁判所により処分され、その金額は債権者に分配されます。不動産や自動車にローンが残っている場合は、所有権のあるローン会社が不動産や自動車を引き上げます。
処分される財産を保持していない場合には「同時廃止」を適用。処分される財産がある場合はその金額によって「少額管財事件」か「管財事件」に区分されます。
借金返済が免除となる代わりに、さまざまな制約が多い「自己破産」。自己破産後の生活はどのようになるのでしょうか?それぞれ詳しく見ていきましょう。
自己破産は解雇自由に該当しないので、基本的に仕事を辞める必要はありません。しかしながら一部の職業または資格について自己破産手続き中は制限を受けます。
職種・資格の制限対象となるのは、「他人の財産(金銭・資産)を扱う、もしくは関わりが深い職業」。これにはいわゆる「士業」も含まれます。
自己破産したら、こういった職業にずっとつけない、辞めなくてはいけない、という訳ではありません。基本的には自己破産手続き期間中だけであり、免責許可決定後に各条件を満たせば復権されます。
以下に挙げた職業に就かれている方は、会社に相談して一定期間、異動するか休職措置などを取りましょう。
【士業】
【一部の公務員】
【団体役員】
【その他の職業】
職種の制限さえ受けなければ、同じように働き続けられため、給料は変わらず受け取ることができます。もちろん年金受給者にも影響しません。
信用情報への記載など一定の制約があるため、誤解されがちですが自己破産はあくまで「生活の立て直し」のための手段であり、給料や年金の受取額が減少するのは本末転倒。収入に見合った健全な収支バランスをぜひ回復しましょう。
高額な退職金が見込まれる場合は、給料や年金とは扱いは別。退職金の一部は財産として評価され、処分の対象となります。またこの評価額は退職するタイミンングで異なる模様。
退職がまだ先であれば、退職金見込額の8分の1が潜在的な財産として評価されます。この金額が高額(自由財産の拡張の場合なら99万円以上)であれば、管財事件として扱われ、裁判所や管財人に納める必要があります。
自宅が持ち家であれば、財産のひとつとして裁判所によって強制力のある「競売」にかけられます。賃貸住宅であれば、財産整理の対象にはなりません。
また本人名義の持ち家だけでなく、配偶者名義の自宅であっても明らかに夫婦共有財産だと判断されれば、競売の対象となります。
「競売」と似たものに「任意売却」があります。裁判所ではなく債務者が全債権者の了承のもと、不動産を売却することです。競売よりは高い販売額で売れるメリットがあるため、自己破産手続きをする前に自宅の任意売却を考える方も多いようです。債務の返済や減額が可能となり、自己破産を免れる場合もありますよ。
20万円以上の査定を受けた場合や、ローン返済が残っている場合は車を手放さなくてはいけません。ローン返済が残っていれば、ローン会社との契約に従って所有権のあるローン会社に自動車は引き渡されます。
ただし、生活に自動車が不可欠な場合、本人以外の第三者がローンを支払うことを債権者に同意してもらう、ローンがなければ裁判所に車の保持を許可してもらう(自由財産の拡張裁判)、という手段で車を維持することが可能です。
破産法において、税金や厚生年金・国民年金などは、全ての納税者・被保険者を公平に扱いべきという公益上の理由で、免責とはなりません。
また追徴課税や刑事罰における罰金・科料は非免責扱い。破産手続開始後の借金も非免責となります。
本人の生命保険は当然ですが、配偶者の生命保険や子供の学資保険も解約払戻金が20万円以上の場合、財産として処分対象となる可能性があります。
たとえ名義を子供や配偶者にしていたとしても、学資保険は子どもは自ら積み立てることが厳しい、配偶者の生命保険は夫婦の共有財産と判断されれば、実質的には本人の財産として判断されることも。
ただし契約者貸付制度などを利用し、解約したとしても払戻金が20万円以下になるようにすれば、解約を回避できる保険もあります。
公的な支払いではありませんが、「養育費」は非免責債権のひとつ。離婚調停の有無に関わらず「養育費」は親権のない親が支払う義務があると法律で定められています。
そのため、支払う側が自己破産しても「養育費」を払い続ける義務があり、それを怠った場合、受け取り(親権)側が裁判所に申し立て、財産や給料の差し押さえが執行されます。
逆に、受け取り側が自己破産した場合で、養育費を子供名義ではなく親権者名義の口座に預金※しているなら、財産の一部として整理される可能性も否定できません。
※33万円以上なら管財事件となる可能性もある
「自己破産」したからといって、社会的な制裁を受けたりする訳ではないので本来は隠す必要がありません。
ただし、「お金にだらしない」「信用できない」というイメージを持たれたくない、家族に心配をかけたくない、といった理由でなるべく隠しておきたいという相談はしばしば見受けられます。
配偶者には必然的に発覚すると思って間違いないでしょう。自己破産の手続き時に、配偶者の収入を証明する書類が必要となります。「確定申告」や「会社の年末調整」に必要、と理由をつけたとしても、露見は免れないでしょう。
例えば、後々の財産処分や裁判所・弁護士事務所から送付される通知書で発覚する可能性があります。夫婦の共有財産と見なされたものは処分の対象となり、処分の対象とならない配偶者の特有財産も「特有財産であること」を証明する必要があるので、その段階の手続きで必然的に発覚するでしょう。
「共有財産」とは結婚後に財産形成した持ち家・自動車・預貯金(積立)などが挙げられます。
それに対して「特有財産」は、結婚前から持っていた財産、明らかに配偶者の給与・所得が振り込まれている配偶者名義の口座の預貯金などになります。
同居の場合は、ほとんど隠しきれないと覚悟しておいたほうがよいでしょう。裁判所から弁護士経由で送られる「免責許可決定」の書類を見られたり、裁判所や弁護士事務所とのやり取り、管財人がつく場合はその膨大な手続きから知られてしまいます。
また同居・別居に関わらず、家族・親族が債権者である場合、全ての債権者に送られる「破産手続開始決定の通知書」で発覚します。家族を借金の保証人にしている場合も、破産手続きを開始した時点で、残債が家族に請求されるので隠し通すことはできません。
別居であり、かつ家族が債権者や保証人でないならバレる可能性は低いですが、同居、もしくは家族が何らかの債権に関わっている場合は、あらかじめ伝えておくのが無難です。
多重債務のある方が見過ごしがちな債務のひとつに「奨学金」があり、こちらは免責区分に含まれています。奨学金は保証人が親であることが多く、奨学金の返済が残っていれば自己破産を知られることになりますよ。
また、そもそも破産者本人名義の持ち家や自動車があるならば、財産処分に伴う生活の変化で発覚する可能性もあります。
基本的に会社にはバレる確率は低いのですが、前述した「制限を受ける職業」の場合、企業側が官報を随時確認している可能性もあります。
そういった場合は、そもそも雇用契約の中に報告が義務づけられていることもあり、トラブルにならないためにも事前に報告しておきましょう。必要なら、一時的に部署の異動や職務内容の見直しを行って貰う必要があります。
また「退職金見込額が高額で管財処分となる、しかし払えない」という場合は、退職金債権として会社に買い取ってもらった代金で納めるなどの手段を講じる必要があり、そうなると自己破産を報告せざるを得ないでしょう。
さらに当然ながら、会社に債務がある場合は、自己破産手続き時点で発覚します。
「官報」とは、国家機関が発行する新聞のようなもので、法律・法令の制定や改正の情報開示から、学術・文化・産業の記事が掲載されています。
ここに、相続や破産といった財産・債務整理の裁判内容も掲載され、債務整理の中では「個人再生」・「自己破産」が本人の名前・住所とともに公表されます。
ほぼ毎日、発行される官報をつぶさに見るという一般人は稀であり、公務員や金融関係者、法律関係者が業務として閲覧するということがほとんどです。
自己破産が同時廃止事件となるか、管財事件となるかの基準は財産の有無。しかしながら借金と財産の状況は一人ひとり異なるため、自己破産手続きをされる方の9割近くが弁護士の手助けを借りています。
自宅の査定額、退職金の見込額、自動車売却後のローン残高、預金額などの財産整理だけでなく、債権者とのやり取りなども弁護士に任せることが可能です。
それでは同時廃止手続きと管財手続きの概要を解説していきます。
裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。
※引用:破産法216条1項
債務者に財産がない、免責不許可事由に当たらない場合に裁判所によって「同時廃止事件」であると判断されます。
この場合の財産とは、東京地裁では現金33万円以下、もしくは自由財産の99万円以下や拡張財産と認められた区分以上の財産がない場合。
自己破産手続きを裁判所に申し立て、それを裁判所が開始決定したと同時に手続きが終了する(自己破産が認められる)ため、「同時廃止」とされています。
管財事件となった場合、その手続は申し立てから免責許可の決定が下るまで、上記のように少なくとも10段階あり、手続きに必要な期間は通常半年、長くて1年はかかると言われています。
さらに弁護士から管財人に引き継がれる際、「引継予納金」が必要となり、これが高額です。個人の自己破産申し立てでは引継予納金が高すぎる場合があり、予納金のために生活再建の目処が立たなくなるのは本末転倒。
そのため、引継予納金を抑えられる「少額管財事件」があり、裁判所によりますが債権者の数や借金の内容が比較的少ない場合は少額管財事件として扱われます。
財産の有無によって同時廃止か管財かが変わりますが、どちらにせよ自己破産に掛かる費用は高め。とはいえ、「自己破産するお金もない…」と諦める必要はありません。
法テラス※の利用や分割払いなど、お金に余裕がない方でも費用を捻出するためのシステムは揃っています。
※「法テラス」とは、法制度や弁護士会などの情報提供から、弁護士費用の立替などを行う。国家よって設立された「日本司法支援センター」のこと。
同時廃止事件 | 少額管財事件 | 管財事件 | |
---|---|---|---|
裁判所費用※1 | 1~3万円 | 諸経費+引継ぎ予納金20万円~ | 諸経費+引継ぎ予納金50万円~ |
弁護士費用※2 | 30万円前後 | 30万~50万円前後 | 30万~80万円前後 |
合計 | 30万円~ | 50万円~ | 80万円~ |
※1:申立手数料1,500円+予納郵便切手代3~4千円+官報公告費18,543円(裁判所による)+引き継ぎ予納金200,000万円~(金額は裁判所による。同時廃止の場合は不要)など
※2:参考金額は1例であり、金額は弁護士事務所による。着手金が必要な場合も多い。
実は引継予納金を抑えるのも弁護士のサポート有りき!債務者に処分すべき財産が合った場合、弁護士なら「少額管財」に持ち込むことができます。
そもそも裁判所に自己破産の申し立てをする前に、どれほど財産を処分する必要があるのか、自由財産はどこまで認められるかなどの見極めは素人では難しいもの。
弁護士と相談しながら最もよい方法を模索していくのがベストですよ。
自己破産のさまざまな制約やデメリット、高額とされる費用は安易な申し立てを防ぐ機能もあります。そのため債務整理の最終手段とされますが、どうしても借金返済の目処が立たないという方には生活の再建ために合理的かつ合法的な手段です。
ここで「自己破産」についておさらいしておきましょう。
自己破産について
家族の迷惑になる…世間の評判が気になる…という思いで自己破産に踏み切れないことも理解できますが、返しきれない借金で苦しんでいるなら、なるべく早い生活再建、収支バランスの回復のためにも「自己破産」を躊躇することはありません。
「自己破産」の概要を踏まえつつ、弁護士さんとよく相談しながら、債務の整理をしていきましょう。
裁判所により自己破産が認められる条件
※詳細は下記参照。